ソウルにいたのは1995年だった。
あるとき、娘をロッテワールドへ連れて行った。ロッテワールドは巨大な屋内遊園地である。巨大なカップケーキのような恰好をした建物であるが、いろいろなアトラクションを詰め込んであるので、ゆったりした感じはない。
娘が4歳とまだ小さく、辛い韓国料理は無理だったので、昼食はガイドブックで見た日本蕎麦屋に行くことにした。
ガイドブックを見ながらソバ屋をさがした。
ロッテワールドの中に、両側を柱で支えられ、中空に浮いたようになっているチューブ上の建物がある。そこにソバ屋があった。
その建物の周りをジェットコースターのループがぐるっと縦に一回りしていた。ジェットコースターに乗っている人たちは、ソバ屋の建物の周りで宙返りするのである。
注文したソバが来た。食べてみると、味が微妙に違う。ソバのような…ソバじゃないような…ツユもちょっと違う。ちょっと味が違うソバとツユをいっしょに食べるともっと変な味になった。
私が不思議な味のソバをすすっていると、ジェットコースターの轟音が響いてきた。建物の中にいるからもちろんジェットコースターは見えない。でも、それが作る音は筒抜けだ。そして、乗客の悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴は建物をぐるっと1回転して消えていく。
乗客の悲鳴は5分おきに建物の周りをぐるっと回り続けた。そして私は不思議な味のソバを食べ続けた。
ソウルのシュールな体験である。
