学校法人朝日学園 明生情報ビジネス専門学校

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カザフスタンの警官

 カザフスタンの警官は安月給である。ワイロがないと生活できない。だから、鵜の目鷹の目で金をせびるチャンスを狙っている。
カザフスタンに到着して数日後、私は買い物をするためにホテルを出た。ホテルの前を歩いていると警官が二人パトカーから降りてきて、パスポートを見せろ、と言った。
 パスポートを見せると、さっそくなぜ外国人登録をしていないのかと難癖をつけてくる。
「外国人登録をしていなければ、お前は、盗賊かもしれないし、テロリストかもしいれない。」
私は、身振り手振りを交えて、私はカザフスタンに来てまだ数日しか経っていないことを伝えた。外国人登録は2週間以内にすればいい。書類はもう関係部署に提出済みである。
 すると、警官はパトカーに乗れと言う。私は断った。しばらく押し問答が続いたが、結局私が根負けしてパトカーに乗った。
警官たちは私を人気のないところに連れて行き、そこでパトカーを止めた。一瞬、こいつらは偽警官で私から金を強奪するためにこんなところに連れてきたのかという不安がよぎったが、彼らの様子を見て、いやそんなことはあるまいとすぐ思い直した。
 彼らはかなり露骨な態度で私に金をせびり始めた。しかし、私はわからない振りをした。向うはロシア語、こちらは日本語と英語の、珍妙な問答がしばらく続いた。
 突然、助手席に座っていた警官が、振り向きざま帽子を差し出した。そして、悲しそうな顔をして、瞬きした。その演技がおかしくて、私はふき出してしまった。
 発展途上国で生活していると、ワイロの請求を受けることがある。公務員の安月給なので、これは必要悪である。相手の要求が過大でなく、こちらの虫の居所が悪くないときには、「まあいいか。」と思って金をやることもあった。このときもそうだった。
金をやろうと財布の中を見ると2000テンゲ札(そのときのレートで1800円)が一番小さい単位の金だった。2000テンゲやるのはしゃくだなあと思ったが、ワイロでおつりは請求できない。あきらめて2000テンゲやった。
すると、警官の一人が、Kuda(どこへ)と言う。私がどこへ行くつもりだったのかを聞いていたのだ。なんでそんなことを聞くのかと思いながら、スーパーマーケットへ行くつもりだったと言うと、わかったと言って、サイレンを鳴らして私をスーパーマーケットまで送り届けてくれた。
 送って行ってくれたのは(後からわかったことだが)ホテルから歩いて20分くらいのところにある当時アルマティで一番大きかったロシア資本のスーパーだった。建物の壁にPaMstopと書いてあるが、実はこれはキリル文字で、ramstor(ラムストール)と読む。
http://www.neoncity.ru/i/pdb/supermarkets/b/ramstor_1.jpg
 私は警官たちに帰りはどうしてくれるのか、と言った。初めてのところだから、帰る道がわからない。すると警官がケータイの番号を教えてくれた。そして、電話すれば5分で来ると言って去っていった。私は半信半疑だったが、買い物を済ませた後、物は試しと思って電話してみた。間もなくサイレンの音が聞こえ、5分どころか2,3分でパトカーが現れた。警官たちは私をホテルに送り届けてくれた。私は、複雑な気持ちだったが、一応お礼を言って降りた。

 この話には後日談がある。
 ある日、私が道を歩いていると、向うからパトカーがやって来た。そのパトカーは通り過ぎたが、間もなくバックして私の前で止まった。私は嫌な予感がした。パトカーから警官が二人降りてきた。その二人は数ヶ月前私から2000テンゲのワイロを受け取った連中だった。私は彼らの顔を見てすぐわかったが向うは私を忘れていた。また、パスポートを見せろと言う。私はニヤニヤしてパスポートを差し出した。パスポートに書かれた私の名前を見て、彼らも私のことを思い出した。再会を喜び合って握手。それから早速金の無心が始まったが、こっちはニコニコしながらも、ああいうのは一回だけだと断固拒否。するとあっさりあきらめて引き上げていった。

荒川友幸
東京明生日本語学院 養成科主任
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