学校法人朝日学園 明生情報ビジネス専門学校

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スキー場で

 ときどきスキー場でリフトから降りそこなって醜態をさらしているスキーヤーがいる。そういうのを見るたびに、ばかな奴めと心の中で嘲笑していた。私は、ベテランのスキーヤーだから、あんなばかなことは絶対しないと固く信じていた。ところが…
 カザフスタン国アルマティ市郊外のチンブラクスキー場には12月から4月までのシーズン中ほぼ毎週末出かけた。時にマイナス30度まで下がることもあるが、すばらしいパウダースノーと広々したゲレンデがとても気に入っていた。
 その日も私はリフトに乗っていた。何十遍も繰り返してきたことだったので私の心に油断があった。スキーの終点近くで私はよそ見をした。そして、視線を前に戻したとき、リフトはすでに降りるべきところに到着しており、私の隣のスキーヤーはもう降りていた。私はあわてた。もうすぐリフトはUターンし、下へと降りていく。私はリフトから飛び降りたが、バランスを崩し、転んでしまった。
 すぐに起き上がろうとするが、スキーを履いているうえ、下は凍結した雪なのでそう簡単には起き上がれない。後ろには次のリフトが迫ってくる。そこにはスキーヤーが乗っている。もし、私がそこでぐずぐずしていたら、次のスキーヤーも私につっかえて人間ピラミッドが出来てしまう。
 私は、危険地帯を抜け出すため、必死の形相で四つんばいのまま前に突進した。どういうわけかスキーがぜんぜん外れない。だから匍匐前進はスキーを履いたままになった。他から見たら私のそのときの恰好はとても滑稽だっただろう。でも、私はそんなことにかまっていられなかった。
 必死に前進し、ようやく危険地帯を脱する。私はほっと息をついて、初めて顔を上げた。
 私のまわりにはたくさんのスキーヤーがいた。みんなそっぽを向いていた。でも、私は知っている。みんな私を見て笑っていたのだ。私が顔を上げる気配を察知してみんな一斉にそっぽを向いたのだ。

荒川友幸
日本語教師養成科主任
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